彼女はお酒が好きだった。
だが、酒豪ではない。
たまに、リミットオーバーすると、
壊れるときがあった。
家でひとり飲みのときや、
僕と二人で飲みに行ったときは問題ない。
友人・知人と飲むような場面では、
要注意だった。
恐らく、無理して飲んでしまうのだと思う。
以前、新潟のある温泉ホテルから、
花火大会の日の宿泊に招待してもらった。
僕は彼女と二人で行くことにした。
花火会場までは、宿がマイクロバスで
送迎してくれた。
そして、いよいよ花火が打ち上がる。
「ヒュゥゥーーー、ドォーーンッ! パラパラ」
全体がよく見える特等席とも言える場所。
僕と彼女は持参した缶ビールを飲みながら、
大迫力の花火を楽しんでいた。
しばらくして、となりの中年おやじが
彼女に声をかけてきた。
新潟の人だそう。
「一杯、飲んでみんかい?」
日本酒を勧められた。
彼女は有難くいただき、グイッと飲み干した。
新潟のお酒だから、美味しかったんだろう。
「おっ、いけるねっか!もう一杯飲まんかい?」
さらに彼女は飲んだ。
「大丈夫?ちゃんと花火見てる?」
まだ大丈夫そうだったけど、
この辺でしっかり止めておくべきだった。
「いい飲みっぷりらねっか!」
一升瓶で持ってきていたので、
けっこう飲んだと思う。
「勧められたら、断れない」
彼女の律儀なところが、悪い方に出る。
彼女は酔いつぶれ、寝てしまった。
そして、花火は終わり、バスが迎えに来た。
だけど、彼女は起きない。
彼女のためにバスは出発できず、
待たせてしまっている。
僕はどうにかこうにか彼女を起こして、
何とかバスまで連れて行った。
そして、ようやくバスは出発。
ここからが大変だった。
泥酔した彼女が大声で騒ぎ出したのだ。
「¥@#%&だっ!!*~…らよぉー!! 」
ホテルに着くまでこの調子。
僕は彼女をなだめ続けたが、
どうにもならなかった。
お酒をくれた中年おやじも同乗してたが、
微妙な気分だっただろう。
翌朝、僕は招待してくれたホテルの担当者に
謝った。
こんなに暴れた彼女を見るのは後にも先にも、
このときだけ。
最初に、まあまあビールを飲んでいたし、
日本酒も相当量飲んだと思われる。
普段は、ビールばっかりだから、
日本酒を飲みなれてないということもあるだろう。
お酒好きの人に、お酒を控えさせるのって、
やっぱり難しい。
適量を飲んでくれる分にはいいんだけど、
そう簡単にはいかない。
彼女も最後、入院するまでの間に、
恐らく、飲酒してしまったんだと思う。
固く禁止していたのに。
でも、彼女にとっては本望だったのかも。
命を削ってまでも飲みたかったお酒。
それをもう死ぬまで飲めないと言われたら、
絶望でしかない。
健康とはトレードオフだから仕方ない。
そう考えると、どちらかと言えば、
僕の方が後悔が大きいんじゃないだろうか。