下の名前で呼ばれなくなった日

彼女が猛スピードで帰った後、すぐにLINEを送りました。

「さっきはゴメンね。俺の言い方が悪かったね。母は呼んで欲しかったみたい、俺が気が利きませんでした。本当にごめんなさい」


その夜、何度電話してもつながりませんでした。




翌朝、LINEを見たら0:14に一言だけ入っていました。



「お疲れ様」



それだけでした。



電話で謝りたかったけど出てくれないので、またLINEを送りました。



「傷つけてしまったね。ごめんね。昨日は冷静な判断ができなかった」






返事はこうでした。


「Common Senseの違いだから仕方がないです」




その夜、電話でつながりました。僕が葬儀で大変だったから、というようなことを言ったのだと思います。

彼女はその「大変」という言葉に反応しました。


「私は両親送ってるの。自分だけ大変とか思ってるんじゃ、この先大変だよね」





その後のLINEを見返すと、愛犬とドッグランで楽しく過ごしている話が続いていました。


普通の会話が、続いていました。




でも、所々にこんな言葉が混じっていました。



「Switch入れ替える努力はしてるよ」


「疲れた。無理に笑顔つくるのとか」


「おかあさんが大事なんでしょ?」


「まだ、気分が悪いんだよ」




普通の会話の合間に、ぽつりと入ってくる。


そのたびに、少しだけ空気が止まる。



やり取りは続いていました。


会えば、普通に話す。



笑うことも、ありました。



でも、少しだけ、何かが違っていました。



あるとき、なんとなく前のやり取りを見返しました。


そこには、

名前が、ありませんでした。




いつからかは、わかりません。

気づいたときには、もう、そうなっていました。


下の名前で呼ばれることは、もうありませんでした。




気づいていました。


でも、


触れませんでした。