父の葬儀の日、僕は彼女を帰した

夜遅くに、父が亡くなりました。



すぐに彼女にLINEで伝えました。


でも既読にならない。寝てしまったようでした。




翌朝、返事が来ました。


でもそれは、父のことではありませんでした。



彼女の飼っている犬が脱走したというのです。



幸い、午前中のうちに見つかりました。

公園で保護されて保健所に行っていたようです。



ドタバタした朝でした。



葬儀は1日葬でした。


コロナ禍だったこともあり、小規模な式です。



彼女から「わたしは何もしなくていいの?」とLINEが来ました。



「大丈夫だよ。親戚でも来ない人がいる。受付も出さないくらい、こういう時だからね」と返しました。

でも彼女は、

「お焼香だけ伺いたいので、場所と時間だけ教えて。さっさと帰るから。気持ちのことなので」と返してきました。



当日まで、来てもらうかどうか悩みました。



葬儀が終わった夜、彼女が来てくれました。


本来は会社の同僚と一緒に来るはずでした。


彼女の立場を考えると、一人より気が楽だと思ってそう段取りしていました。


でもその日、

同僚が事情があって遅れるというので、

彼女は一人で来ました。



彼女は極度の方向音痴なので、途中から何度も電話をかけてきて、迷いながらやっとのことで辿り着いたのです。

とても疲れ切った顔をしていました。礼服も乱れた状態でした。

弟家族が来ていたので、家の中は子どもの声でとても賑やか。



母はキッチンにいて、彼女が来たことに気付かなかったようで、

出てきませんでした。

でも、僕が彼女と何度も電話していたのは見ていて、僕が玄関に出て行ったのも多分わかっていたはずでした。

そして僕もまた、母を呼びに行きませんでした。



彼女の服装が乱れている。印象を悪くしたくない。


そう思いました。





父に会ってもらい、10分くらい話しました。



なかなか母が来ない。



そして僕は「じゃあ、そろそろ」と言って、

彼女を帰そうとしました。


このまま帰ってもらった方が波風立たなくていいなと思ったのです。



その言葉に彼女は激怒。


「誰も出てこないって、どういうこと!!!」


彼女が大きな声を出しそうだったので、それを制する感じでなだめました。



うちの家族の楽しそうな声も聞こえたので、余計に怒りが込みあがって来たはず。


今までで一番怒った瞬間だったと思います。





彼女は車に乗り込み、猛スピードで帰って行きました。




彼女はこの一件で確信したのだと思います。



自分は僕の家族に受け入れられていないのだと。



家族が彼女のことをどう思っているのか、


僕も彼女に対してずっと曖昧にしてきたのも悪かったです。


あのとき、母を呼びに行けば良かった。



たったそれだけのことでした。



でも僕はしなかった。



自分は本当に最低な男だと思います。


このことがなければ、彼女の人生はもっと違っていたはずです。




悔やんでも、悔やみきれない。